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最高裁判所第三小法廷 昭和25年(あ)30号 判決 1950年6月13日

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

被告人宗平漸及び弁護人岩村辰次郎の上告趣旨は末尾に添附した別紙書面記載の通りである。

被告人の上告趣意について。

論旨は結局刑を軽くして頂きたいということに帰する。しかしかような主張は、上告 法の理由とならないものである。

弁護人岩村辰次郎上告趣意第一点について。

記録を調べて見るに、第一審において、裁判長は元より弁護人もまた本件犯行の動機其他の情状に至るまで詳細に質して居り且つ檢察官は被告人が証拠調について同意した被告人の司法警察官に対する供述調書、檢察官に対する弁解録取書等を順次朗読していることが明らかである。そして右朗読した書類就中供述調書には本件犯行並にその前後の事実関係を録取されているのであるからこれ等と判示被告人の自白とを綜合して判示事実を認定したことについて何等採証法則に反するところがあるとは認められない。なお論旨は原判決は当裁判所の判例に反すると主張するが所論の判例は旧刑訴法の適用された事件についての判例であり且つ其内容は「刑事訴訟法第一三四条にもとづく冒頭訊問の外ほとんど公訴事実の内容について具体的の訊問を行わず、しかもその二三の訊問の結果はむしろ、被告人の本件犯行を否認する趣旨に解せらるる場合に、漫然右冒頭陳述の際における被告人の供述をとらえて判示同趣旨の供述として犯罪事実認定の資料とするが如きは、吾人の実驗則に照らしとうてい合理的な採証ということはできない」というのであって本件の場合とは異るものであること明らかであるから論旨は理由がない。

第二点について

いわゆる自白の補強証拠というものは被告人の自白した犯罪が架空のものではなく現実に行われたものであることを証するものであれば足るのであって、其犯罪が被告人によって行われたという犯罪と被告人との結びつきまでを証するものであることを要するものでないことは当裁判所の判例とするところである(昭和二四年(れ)第一三五四号同年七月一九日第三小法廷言渡)から論旨前段は採用しがたい。なお論旨後段において司法警察職員が被疑者以外の者を取調べ其供述を録取した供述調書はあらかじめ供述を拒むことができる旨を告げた形跡がないから不合法のものであると主張する。しかし刑訴第二二三条第二項は檢察官檢察事務官又は司法警察職員が犯罪捜査の必要上被疑者以外の者を取調べる場合に同法第一九八条第一項但書及び第三項乃至第五項の規定を準用する旨を規定し特に第二項の規定の準用を除外している点に鑑みれば被疑者以外の者の供述を録取するに当っては供述を拒むことができる旨をあらかじめ告げる必要はない趣旨であると解すべきであるから論旨は理由がない。

本件は刑訴第四一一条を適用すべきものとは認められないから同第四〇八条第一八一条により主文の通り判決する。

以上は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 長谷川太一郎 裁判官 井上 登 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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